第3講義 ヘラクレイトス宇宙の秩序は永遠に生き続ける火やはりイオニア地方にエフェソス(エペソス;エペソ)という都市があります。ミレトスの少し北です。サモス島の東になります。この地の王族の出身といわれるヘラクレイトス(Hêrakleitos, B.C.6c-5c生没年不詳)は、「世界の根源(アルケー)は、【火】である」と言いました。また、「万物は流転する(パンタ・レイpanta rhei)」という言葉も有名です。 この世は「結合」と「分離」を繰り返し、常に変化している。この変化を司(つかさど)っているのが、【ロゴス(logos)】と呼ばれる「法則」である。こんなことを言いました。 同じ川には2度入れない「あなたは、同じ川に2度入ることはできない」。2度目に入る川は、1度目の川と同じように流れていますが、水は先ほどの水ではありません。先ほどより上流を流れていた水です。しかも、あなた自身も少し変化しているはず。こんなことを、ヘラクレイトスは言います。 どこかで聞いたことがあるでしょ。「行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」。鴨長明『方丈記』です。高校あたりで暗記させられたでしょ。そうですか。『徒然草』は暗記しましたか。 吉田兼好や鴨長明を隠者(いんじゃ)と言うんです。出家して世俗界とは離れて、隠れ暮らすのです。ヘラクレイトスにも、そんなところがあります。なんてったって、あだ名が「暗い人」。「なぞをかける人」「泣く哲学者」と言われることもあった。 「祇園精舎の鐘のこえ、諸行無常の響きあり」というのもありましたね。日本の場合は「諸行無常」と、物が移り変わるのは少し暗めの感覚があるのですが、ヘラクレイトスは、「変化することは良いこと」で、自然なことだと言うのです。逆に「変化しないのは悪いこと」。停滞を意味するからです。そして、「変化しないものなどない。すべてのものは変化する」と主張したのです。 対立と調和流転の説明について、彼は「戦い」という概念を持ち込みます。「昼と夜、夏と冬、戦争と平和。これらが争い、右に振れたり左に振れたりしながら変化し、調和を保つ」。「戦いは万物の父である」とも言い切ります。「対立と調和」。この法則が、ヘラクレイトスの言うところのロゴスなのです。ロゴスは「神」「理法」「理(ことわり)」「真実」と訳す人もいます。また、同じ人でも、使われている箇所により訳を使い分けています。ロゴスを使い始めた最初の人が、ヘラクレイトスだ、という説があるので、彼が使うロゴスは、ある程度の幅を持って解釈するべきですね。 飢餓があるから、飽食はありがたい。疲労しているときは、休息が心地よい。病気があるから、健康であることに感謝する。というわかりやすいことも言っています。 ああ、もう一つ、ヘラクレイトスでは、言っておかなければいけないことがあります。ギターの弦が上下に揺れて音が出ます。この状況を「上り坂も下り坂も同じ一つのものだ」と言いました。他の現象もそうです。先ほど話した「病気と健康」も「上り坂と下り坂」なのです。対立が調和をもたらすという説明に使われています。 この世界を構成している宇宙の原理(ロゴス)についてですが、先ほどの「上り坂と下り坂」が登場します。ヘラクレイトスの解釈では、「火」と「魂」は同一のものと考えてもいいようです。そして、「魂」は「水」に、「水」は「土」に変化し、逆に「土」からは「水」が生まれ、「水」からは「魂」が生まれます。このように絶えず変化を繰り返すのですが、全体としては増えもせず減りもせず調和を保っているのです。この現象を司っているのがロゴスなのです。 彼は、人間にも「ロゴスに従い、自然に暮らせ。不自然なことはするな」と警告しています。魂を理性ととらえていて、それが湿るとダメなんだ。乾いた状態にしておかないと。だから「火」なんだね。酒を飲んだりすると理性がなくなるわな。酒を飲むと魂は湿るんだそうだ。私は酒を飲むことも自然なんだけど。まあ、これは冗談です。また、「目に見える調和より、目に見えない優れた調和がある」と言っている。結局よくわからん。というのが、今んところの結論です。 しかし、アルケーも「火」だと言っているし、世界を動かす原理も「戦い」だ考えています。ミレトス派の考え方とピュタゴラス派の考え方を、2つとも受け継いでいますね。こんなところがまとめになりますが、ちょっと違う話をします。 Diels H. et Kranz W.今日の第3回までの講義に出てきた人を含めて、ソクラテス以前の哲学者のことを、ドイツ語で“Vorsokratiker”フォアーゾクラティカーといいます。このあとも続々登場します。なにぶんにも古いことですので、彼らの著作が完全に残っているということはありません。後の学者や史家が、一部を自分の著作に引用していたりします。そういうのを全部集めてまとめた本があります。その標準となっている本が、Diels H.とKranz W.の書いた“Die Fragmente der Vorsokratiker”です。この本の内容は、各哲学者別にA・B・Cの3項目に分けて記述されています。このうちB項目が、その哲学者の本当の言葉・著作と思われる文です。段落までいかない1文のものが多く、断片と呼ばれています。B項目は「真正断片」と呼ばれています。 その真正断片だけを読んでみて、「この人、ソクラテスじゃないの?」と思いました。そう思われる部分を書き出してみました。これ、前から順に1枚ずつ取って、後ろに回してください。 ヘラクレイトスのプリント
ヘラクレイトスは、「魂」や「人間がどう生きるか」についても考えていた。
みなさんは、ソクラテスについては、まだ詳しく勉強していないから、何のことかわからないでしょうが、そのうちやりますから、このプリントも残して置いてください。余裕があれば、共通点を探りましょう。 アリストテレスの呪縛アリストテレスという大哲学者が、後に先人たちの業績を分類整理します。そして、評価や批判をするわけです。アリストテレスは、ヘラクレイトスを自然の成り立ちを主に研究する【自然哲学者】とみているのです。この見解は、後の学者たちに影響を与えます。死後二千数百年経った時代の我々でさえ、彼の見解を無視するわけにはいきません。恐ろしい影響力ですね。 まあこれは、今日お話したように、多くの哲学者のきちんとした資料が残っていなくて、こういうのを探すと、アリストテレスの書物に、たくさん載っているわけなのね。確かにアリストテレスは優秀で偉大な人物なんだけれども、都合のいいように引用していないとは言い切れないと思います。 あっ、これ、大事なことだから言っておきますが、私がこの講義で話すことは、多分に私の解釈や意見が入っています。哲学者たちは、本当はもっと違うことを考えていたのかもしれません。興味を持ったり、疑問が出たら、いろんな文献を当たって自分で調べ、考えてみてください。その姿勢こそが哲学なんです。
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