ギリシア哲学への招待状 愛知哲仁 An Invitation to Greek Philosophy

第1講義 ミレトス派

はじめに

こんにちは。愛知といいます。皆さんと哲学史について、勉強していきます。この講座の題名に「哲学」という名前が付いているので、「哲学とは?」ということを、まず知りたいと思う方もいると思いますが、それはお話せずに、いきなり「哲学をした」と思われる人を、古い順に紹介したいと思います。えーと、順番は多少新旧が逆になることがありますが、そのことには触れずに話を進めることがあります。まあ、とにかく、「哲学した」人について話をしますから、その中で「哲学」というのが浮き彫りになってくるのではないかと思います。時間がもったいないので、さっそく行きます。

タレス

『トロイ』という映画が日本でも公開されました(2004年)。トロイ・トロヤ・イリオン・トロイアといろんな呼び方をされます。どこにあるか、ご存知ですか。現在のトルコは、小アジア。エーゲ海に面した西岸地方の北の方にあったとされるのが、トロイですね。ヒサルリック(ヒサルク)の丘を、シュリーマンが私費を投じて発掘しました。考古学にとっては、大きな出来事だったけれども、現在では、そこがトロイだという確証はないんだそうです。彼は、結構ズルをしていたみたいです。その遺跡は紀元前3千年から紀元後90年ぐらいまでのものだと調査が進んでいるそうです。本当にトロイかも知れませんが、後の年代の方は、ギリシア人たちが造ったものです。

ギリシア地図 ホメロス(ホーマー)というギリシアの詩人の有名な叙事詩に、トロイ戦争が記述されています。「トロイの木馬」の話が出てくるものだね。それが先ほど話した映画と一致します。コンピューターのウイルスにも、「トロイの木馬型」とか使われる。えっ、それはどういう意味かって? それはだね。おっと、この講義はあまり余裕はないんだ。雑談はこれくらいにして、と。

トロイから、小アジアの西海岸をずーっと南下していくと、イオニアと呼ばれた地域に入り、そこにミレトスという町があった。ギリシアというのは、そんなに耕地が多いわけでもないし、地味が肥えていたわけでもないので、お金儲けのために貿易に従事する者が多かったんですね。アテネなんかは、海軍力を背景にして、各地に植民市をつくっていくんです。その一つがミレトスなんですね。

貿易商たちは、主に地中海沿岸を行き来して、仕事をします。いろんなことを知っているほうが有利ですね。お金をもうけますから、ちょっと余裕も出るわけです。そうして、いろんなことを考える。

「三角形の内角の和は180度」「二等辺三角形の2つの底角の大きさは等しい」「平行線はどこまでも交わらない」。中学校の数学で習いましたね。こいつらを発見したり、証明したりしたのがタレス(Thalês, B.C.624-546頃)です。「合同」や「比例」も証明して、棒1本でピラミッドの高さを測ったりもした。数学の天才だね。日食さえ予言したんだ。

そのタレスが「万物の根源は水である」と主張した。これが哲学の始まりだとされている。「世界は何からできているか」「宇宙はどのように成り立っているのか」。こういうことを考え始めたのだ。「神様が創ったのだ」というような、人の言うことを信じていては、哲学とは呼べないんだ。自分の頭で考える。これが【哲学】なんだ。「根源」は【アルケー(archê)】と言います。すべての「もとのもと」は何なのか。そのアルケーを探し始めたんだね。ただ、タレスがアルケーという言葉を使ったかどうかの証拠はありません。

アナクシマンドロス

後輩のアナクシマンドロス(Anaximandros, B.C.610-546頃)は、「無限なるもの(ト・アペイロン)」がアルケーだと言った。水はたくさんあるようだけど、しょせんは限りあるもの。そんな有限のものが万物の根源だとは考えられない。アナクシマンドロスは、そう考えた。

君〜ぃ。だ〜めじゃないか。携帯の電源は切っておいてくれたまえ。今度からは、学籍番号を控えさせてもらうから、みんなも気をつけてくれよ。

えーと、アナクシマンドロスだったね。ト・アペイロンは話したね。この〔無限なるもの〕は、永遠で不滅だ(真正断片2と3)と言っています。今現にあるものは、すべてこの無限なるものから生まれてきて、また消えていく。時の定めに従って。この時の定めとは、栄枯盛衰(えいこせいすい)。生まれたものは、やがて死に行く。盛んなものも衰える。こんなことを言っているようなのです。互いに不正に対する罰を受け、償いを支払うことになる(真正断片1)。こう言っています。アナクシマンドロスは、いろんなことについて書き残したようなんだけど、現在ではほとんど残っていない。だから、先ほどの考えも、よくわからないんだ。

また、〔無限なるもの〕が、ただの素材なのか、現象とか宇宙そのものを支配する原理となっているかについても、ここでは結論づけることはできません。ただ、アリストテレスが調べた中には、「〔無限なるもの〕があらゆるものを支配している」という内容が含まれています。

アナクシメネス

アナクシマンドロスの後輩のアナクシメネス(Anaximenês, B.C.585-528頃)は、「空気(アエル;aêr)」がアルケーと考えた。アナクシマンドロス先生が言うように、無限なものなら、空気があるじゃないか。空気は無限でアルケーにふさわしい。そう思ったんだね。アナクシメネスは。空気が濃厚になれば「水」、やがては「土」になる。どんどんと薄くなれば、「火」ができると考えたんです。空気は、人間の魂のもとにもなると考えたようなのです。

そして、「空気自身は、宇宙全体を包み込んでいる(真正断片2)」と言っています。このあたり、言葉通りに考えればうなずけるところもありますが。うん、宇宙といっても、このころはロケットで本当に大気圏外に出るわけじゃないから、人間のいるところは空気があって、すべてを包み込んでる。でも、多分、彼の言っているのは、そういうことじゃないんだね。人間の魂も空気だ(真正断片2)と言ってるんだから。となると、精神的なものも関係してくると思う。これ以上は、わからないから、ここんところでまとめを。

ミレトス派

彼らはミレトス学派と呼ばれています。私の講義ではミレトス派と呼ぶことにします。2千5百年以上も後の我々は、3人が言うような物が、万物の根源でないことは知っています。しかし、数人を除いては、それは教えられたもので、自分で考えたものではありません。ミレトスに住んでいた彼らは、自分の頭で考えたんです。すごいですね。そんなに的外れではないと思います

人間も半分以上は、水分からできています。地球が水の惑星だったから生命が誕生したと考えられています。たぶん水のない火星には、生物は生存していない。空気も大切だね。有限だけど。

唯物論

彼らミレトス派は、神が創ったとか言うんではなく、「ものからものがつくられた」と考えたわけだ。「神」「霊魂」というのは無視したわけではないんだけど、「物質」があって初めて「神」「霊魂」など「観念的なもの」も生まれてきた。まず「物質」だ。こういう考え方を【唯物論(ゆいぶつろん)というんです。【一元論(いちげんろん)という言い方をされることもあります。これは、誤解されると困るんだけど、唯物論の一元論と唯心論の一元論は、対極の位置にあって、全然別になります。唯物論=一元論ではなくて、……。ああ、わかるね。

アテネなどのギリシア本土のポリスで、ミレトス派のようなことを言うと「神を冒涜(ぼうとく)するものだ」と言われて迫害される。ギリシア神話を信じてる市民たちだからね。ミレトスという遠く離れた植民市だから自由にものが言えたと考えられます。

哲学は、まず、自由に物が言える環境がないと育たない。ミレトスでは、アルケーを探し求めることから哲学が始まったんだ。

今日はここまで。


インデックス・ペイジ

初期ギリシア哲学

 第1講 ミレトス派

 第2講 ピュタゴラス派

 第3講 ヘラクレイトス

 第4講 エレア派

 第5講 エンペドクレス

 第6講 アナクサゴラス

 第7講 原子論

ソクラテス

 第8講 ソフィスト

 第9講 ソクラテスの生涯

 第10講 ソクラテスの弁明

 第11講 クリトン

 第12講 ソクラテスとは

プラトン

 第13講 プラトンの生涯

 
第14講以降は第13講のペイジ内やインデックス・ペイジ内のリンクよりご訪問ください。




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受講上の注意
 この講義は、北伊勢総合大学という架空の大学の一般教養科目中の「哲学」講義の一部です。
 「哲学」という科目で、講義内容は講師に任されています。実際は「古代哲学史」「ギリシア哲学史」と呼ぶほうが実態に合っています。
 この講義はフィクションですので、目くじらを立ててご批判になるには及びません。ご助言・ご意見等は歓迎いたしますが、酷評はご遠慮申し上げます。
 また、人名や専門用語の表記については、未熟者ゆえ統一されておりませんが、ご容赦のほどを。








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参考文献
『原書で愉しむ』ソフィーの世界―エデンの園からソクラテスまで
Jostein Gaarder原著
斎藤誠毅著 研究社
 やさしい哲学入門書『ソフィーの世界』の英語版。原書読みの入門として。
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参考文献
『哲学の原風景―古代ギリシアの知恵とことば』
NHKライブラリー
荻野弘之著 \872
 ソクラテス以前の哲学者についてわかりやすく解説されている。
 これを読めば講義に出なくていいくらい。でも、出るんだぞ。
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参考文献
『ソクラテス以前哲学者断片集第1分冊』  ¥4,830
内山勝利編 岩波書店
 貴重な資料を日本語にした記念碑的な書籍
 タレス・アナクシマンドロス・アネクシメネスの他、 オルペウス・ムゥサイオン・エピメニデス・ヘシオドスなども収録

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