ギリシア哲学への招待状 愛知哲仁 An Invitation to Greek Philosophy

第12講義 ソクラテスとは

リポート課題について

先週はお休みをいただきました。この講義は哲学史入門(「哲学」としかついてないのだが、講師の認識不足であろう。そう思い込んでいるようである。)という題名がつけられていますので、ソクラテス研究の最大公約数的なことも語っておかなければいけません。今日はそうして、ソクラテスを終わりにしたいと思います。

来週からは夏休みですね。この講義に、前期試験はありません。その代わり、夏休み中にプラトン著の『ソクラテスの弁明』の日本語訳、誰の翻訳でもかまいません。それを読んで、自由にレポートを提出してもらいます。それを採点して試験の代わりにしたいと思います。枚数、形式、内容など自由です。原稿用紙でもレポート用紙でも、ワープロ印刷でも、何でも良いです。でも、読みやすいものや、立派なものには高い点数がつきます。何?、1枚でもいいかって?。少なくてもかまいませんが、合格点は取れないでしょう。提出期限は9月16日(金)です。私の研究室の入り口、入ったところに提出用ダンボールが置いてあるので、その中に入れてください。学部学科、学年、学籍番号、氏名は、わかりやすいところに、忘れずに書いておきなさい。私が気づかなかったら0点です。あと、読んだ本の出版社名と翻訳者名もどこかに書いておく。

いろんなソクラテス像

さて、ソクラテスですね。

以前にも述べましたが、彼は書物を残していません。彼の言動・事跡は、弟子のプラトン、クセノフォンと喜劇作家アリストファネスの作品に書かれています。

困ったことに、書く人物によって、ソクラテス像が異なっています。どの人物が描くソクラテス像が、実物に近いのか。研究家たちは、古代から、このことを考え、意見を交わしてきました。

「プラトンは、ソクラテスの優秀な愛弟子で、一番信頼に足る」と意見するものや、「いや、師を理想化しすぎている。客観的に見ているクセノフォンこそ信頼できる」という者もいます。アリストファネスは……。あれ、君たち、もう知ってるの?。えっ、何だって?。1ヶ月前くらいに、私が話した?。そうだったかな。

わかりました。じゃあ、これだけお話します。プラトンの対話集には、ほとんどソクラテスが登場します。そして、いろんな人といろんな話題について対話します。この中には、ソクラテスの意見というよりは、プラトン自身の意見が、ソクラテスの口を通じて語られているものが多い。学界の意見の大勢は、そういうことになっています。私ごときものは、それに反論するだけの研究もしていないし、資料も持ち合わせていないので、それが妥当だという以外のことは言えません。

プラトンの前期作品中のソクラテス

さらに、プラトン作品は、その著述された年代が詳しく研究されてきていて、前期作品群・中期作品群・後期作品群の三つに分類されるのが一般的になっています。そのなかで、前期作品群に分類される作品が、比較的ソクラテスの言動や考えを忠実に描き出している。そういうことになっています。

私も、それに従って、『ソクラテスの弁明』『クリトン』を軽く紹介しました。中期以降になると、プラトンの考えが前に出てきて、それはもうプラトンの思想になると考えられています。いずれにしろ、後期はプラトンをやるので、中期以降の作品群も見て行く事になりますが。

ソクラテス、おさらい

無知の知

ソクラテスは、3度ほど祖国アテネのために戦闘に参加しました。あまり仕事をせず、町に出かけてはアゴラなどの広場で、若者たちと話をしていました。カイレフォンのもたらした「ソクラテスより賢い者はいない」というアポロン神託を信じられず、知者として名高い政治家・詩人・職人などを、次々と訪れ、神託を確かめます。そうして得られた結論は、「自分が知者だと思っている人々も、もっとも肝心な魂の問題については、何も知っていない。彼らは知らないことに気づいていないが、自分は知らないことを自覚している。ということは、私の方が【無知の知】を持っていることになる。その点では神託は正しい」という結論に達します。

知行合一

そして、ソクラテスは、この〔魂の問題〕を追求するため、人々をつかまえては【問答法】を行います。そうして、真・善・美などについて、正しい知識を得て、それに基づいて行動する。【アレテー】、【徳】でしたね。物事を達成できる優秀性でした。人間の場合は「正しく生きること」です。正しい知識を得て、正しい行いをすることが、徳を手に入れることになります。そうすることが、人間にとって幸福なことである。【知行合一】【福徳一致】【知徳一致】といわれるのは、この内容です。

何だって?。大体の内容はもう聞いた?。うん、まとめているんだよ。出てなかった学生もいるからと思って。私も、これより突っ込んだ話はしたくないと思っているので、あくまで、あらすじだけ。

汝自身を知れ

昔からギリシア人の間で言われている「汝自身を知れ」。ちょっと時代的な表現ですが、「自分自身を知りなさい」より、重みがありますね。グノーティサウトゥーンと言うらしいが、Γ(ガンマ)Ν(ニュー)Ω(オメガ)Θ(シータ)Ι(イオタ)、これが、グノーティ。そして、Σ(シグマ)Α(アルファ)Υ(イプシロン)Τ(タウ)Ο(オミクロン)Ν(ニュー)、これがサウトーン。これが、神殿とか広場の柱なんかに刻まれているのです。小文字だと“γνωθι σαυτον” ソクラテスは、この言葉を使う使わないは別にして、その言動は、自分自身や、話し相手にもこの言葉を突きつけていたと思います。自分や人の魂のあり方を調べ、そうすることにより、その魂をより高める。それが彼に負わされた神からの宿命だったのです。ソクラテスはそう信じていました。

後に続く人類のために死刑判決を勝ち取る

その言動がアテネの市民に嫌がられ、訴えられることとなります。訴えられたことにより、ソクラテスが反省して、言動を控えてくれれば良し。また国外追放も良いかも。訴えた側は、その程度に考えていたと思います。

しかし、ソクラテスはその思惑には乗らず、無謀とも思える弁明を行います。そして、死刑を勝ち取り(?)ます。この死刑があるからこそ、ソクラテスという人物は、哲学史の上で、燦然(さんぜん)と輝いているのです。

西洋倫理学の祖

「人間はいかに生きるべきか」「何をしなければならないのか」そういうことを考える学問を【倫理学(りんりがく)】といいます。もちろん、ソクラテスの先人にも、それを考えた人がいたでしょう。しかし、私たち人類が現在知る限り、命を懸けてまでそれを切り開いた教科書がソクラテスなのです。

これで、前期の講義を終わります。

リポート提出上の注意

いつもいるとは限りませんが、いるときを見計らって質問に来てください。できるだけ皆さんの成長を助けるように回答します。研究室は、教授棟の*階***室です。何号館とか名前がついていたかね?。でも、教授棟でわかるよね。

宿題忘れずに、ここに書いてあるね。消してないから。提出期限は9月16日(金)。私の研究室の入り口の、入ったところに提出用ダンボールに。学部学科、学年、学籍番号、氏名は、わかりやすいところに。 書いてなかったら0点。書いてあっても、私が気づかなければ0点。 そう、1枚でもよかったね。10点でよければ。それでは、9月に。

実際には

(現実には、当サイトの掲示板(BBS)にご投稿いただくか、管理人にメールをください。その場合、そのリポートを当サイトに掲載する許可とリポート文の削除や改変などの権利を、管理人愛知哲仁にお与えいただいたものとみなします。それでは、皆様、奮ってご参加ください。提出期限等はありません。もちろん、学部・学科・学籍番号の記入の必要はありませんが、読んだ本の出版社名と翻訳者名をどこかにお書きいただければ幸いです。)

(夏休みのため、2ヶ月ほど休講となります)


インデックス・ペイジ

初期ギリシア哲学

 第1講 ミレトス派

 第2講 ピュタゴラス派

 第3講 ヘラクレイトス

 第4講 エレア派

 第5講 エンペドクレス

 第6講 アナクサゴラス

 第7講 原子論

ソクラテス

 第8講 ソフィスト

 第9講 ソクラテスの生涯

 第10講 ソクラテスの弁明

 第11講 クリトン

 第12講 ソクラテスとは

プラトン

 第13講 プラトンの生涯

 第14講 プラトンの著作

 第15講 想起説

 第16講 イデア論

 第17講 哲人国家論

アリストテレス
  第18講 アリストテレスの生涯

第19講以降の講義は、第18講義のペイジか、インデックス・ペイジ内のリンクをクリックしてご覧ください。



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参考文献
『帰ってきたソクラテス』
池田晶子著 新潮文庫
\460 2002/04
 現代日本に現れたソクラテスが、例の論駁法を用いて、現職議員や老人福祉係・ニュースキャスター・ジャーナリスト・評論家・エコロジストたちと対話を行う。ユニークな企画。さあ、あなたもソクラテスと対話しよう。 Amazon.co.jp
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参考文献
『ソクラテスよ、哲学は悪妻に訊け』
池田晶子著 新潮文庫
\460 2002/09
 悪妻の代名詞とされてきたクサンチッペが、夫ソクラテスと大激論を繰り広げる。
 テーマは、不倫ブーム、臨死体験、大地震、反戦映画、マルチメディア。 Amazon.co.jp
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参考文献
『14歳からの哲学―考えるための教科書』
池田晶子著 2003/03
トランスビュー \1,260
 「死」「家族」「社会」「恋愛と性」など、30のテーマで考えるきっかけ作りを目指した本
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参考文献
『ソクラテス研究』
岩間秀幸著 コスモヒルズ
\3,465 2002/01
Amazon.co.jp
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『哲学』の由来
 ギリシア語で sophia は「知恵」、philo は「愛する」「求める」という意味。philosophia は「知を愛する」という意味になる。この英語が、philosophy。
 賢哲を希求する(賢人・哲人になるように希望し、それに向かって努力する)学問という意味で、西周(にしあまね)が、「希哲学」と訳した。この「希」がとれて「哲学」という語が定着した。
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