ギリシア哲学への招待状 愛知哲仁 An Invitation to Greek Philosophy

第5講義 エンペドクレス

エレア派の要求に従って

シシリー島(シチリア)で、医者をしていたエンペドクレス(Empedoklês, B.C.493-B.C.433)。シケリア島とも言っていたのですが、その島のカルタゴに向かった南岸の西よりのところに、アクラガスという町がありました。そこの名門出身ということです。彼はエレア派の要求にも答えようとします。

「無いものから有るものは生まれない」「有るものは無くならない」。このエレア派の原則は守ります。そして、「存在するのはたった一つ」という考えにも工夫をみせます。

4つのリゾマータ

万物の根源、アルケーでしたね。エンペドクレスは、【根(リゾマータ;rizomata)】と呼んでいます。これは、4つある、というわけです。〔地〕〔水〕〔火〕〔風〕の4つです。この4つは、もともとは完全な一つの球体でした。この完全な球体というのは、やはりエレア派が、唯一のものは完全な球体であると言っていたからです。エレア派は1個だとしましたが、エンペドクレスも元々は1つだ、というわけです。

愛と憎しみ

現実の世の中は、たくさんのものが存在しているように感じられますね。これらが存在するのは、先ほどの4つの根が、〔愛(philia)〕と〔憎しみ(neikos)〕の2つの力関係によって配合が変わり、その配合比率によって違った物質がたくさんあるように見える、と考えたんです。

愛の支配しかないときには、完全なる1つの球体だったものに、憎しみが入り込み、4つの根に分離してしまった。そして、存在するあらゆるものは、この4つの根の混合比によって、違うものが生まれるのだ。だから「無から有が生じる」のではなく「有から有が生じる」のだ。これで、エレア派に対する説得を行っているのです。

4根のうち、「土」が多く配合されたものが大地。「水」が多く配合されたものが「海」。「風」の配合が多いのが「空」、というわけです。4根がすべて等しく配合されると「血液」になります。我々が「生まれた」と感じるのは、この配合が行われたときなんです。我々人間も、この配合によって生まれます。男と女では、配合比が違います。どう違うんでしょうね。そこまでは知りません。

4期を永遠に繰り返す

宇宙は、「愛が完全支配する時期」「憎しみが侵入する時期」「憎しみが完全支配する時期」「愛が侵入する時期」、この4時期を永遠に繰り返す。こういう風に、エンペドクレスは考えた。我々人類が生きているのは、第2期なんです。3期になると動きが完全に止まってしまいます。

彼のこの理論は、意外に長く用いられます。錬金術なども、この考え方を土台にしています。

空気は無でなく有だ

話は変わりますが、「空気」、ここでは風としましたが、これは「無」ではなく「有」である、ということを実験によって示したのも彼でした。

両端が穴の開いている円筒形のものを考えてください。それを縦にして水の中に入れていくと、円筒の中にも水が入ってきますよね。そう、そう、水面の高さと同じ位置まで。でも、上っ側を手や指で塞いで、水に浸していくと、円筒の中には水が入ってこないですね。これは中に「空気」があるからだ。そういうわけです。

月の光も反射光だと見破っていました。すごいですねー。もっとも、太陽の光も反射光だと思っていたようですが。

神となるためエトナの火口に消える?

彼は、非常に面白い人物で、自分を「神に近いもの」と呼んで、人を生き返らせたり、風向きを変えたりするんです。医者としては当然ですが、ペスト菌と思われる菌を駆除したりもします。政治家として民主化のためにも尽くします。そのための弁論術も磨きます。いわゆる天才です。まあ、この講義で紹介している人は、みんな天才なのですが。

マグナ=グレキア地図 多分、彼は政治的な迫害を受けます。今までの支配階級たちは、彼の意見に民が従うのは、困りますから。民主化なんてとんでもない。結局エンペドクレスは、さらに神に近づくために、エトナ山という火山、これはシチリアにあるんですが、3200mを越えます。300mも越えるかな。まあ、富士山よりは低いと思ったが、とにかく島の大きさからしたら高い山です。そう、神に近づくために、そのエトナの火口に消えます。サンダルをきちんと揃えて。

何でギリシアの話にイタリアが出てくるんだと?。それはだな、ローマが強くなるまでは、今のイタリアの南の方は、ギリシアの勢力下にあったんだ。シシリー島もそうだったんだ。マグナ・グレキア(大ギリシア)と呼ばれていたんだ、イタリア南部は。

「火口に消えた」と神秘的な話をしましたが、これは真実かどうかは疑わしい。追放処分になって、ギリシアのどこかで亡くなった、というのが大方の見方です。でも、サンダルを残して消えた方が、劇的だよね。……。研究者にあるまじきことを言いました。忘れてください。調子に乗りました。……。

知を働かせ、愛の力を獲得せよ

彼もまた、魂は何度も肉体を替えながら転生すると考えていました。それは、やはり憎しみの力によるものなのです。ですから、特に殺戮(さつりく)や戦争などの悪行をやめ、真の知を求めるために知性を働かせ続け、愛の力を獲得できれば、神となり不滅の身となる。私たち人間ができることは、そういうことだと言っています。

今日はここまで。


インデックス・ペイジ

初期ギリシア哲学

 第1講 ミレトス派

 第2講 ピュタゴラス派

 第3講 ヘラクレイトス

 第4講 エレア派

 第5講 エンペドクレス

 第6講 アナクサゴラス

 第7講 原子論

ソクラテス

 第8講 ソフィスト

 第9講 ソクラテスの生涯

 第10講 ソクラテスの弁明

 第11講 クリトン

 第12講 ソクラテスとは

プラトン

 第13講 プラトンの生涯

 
第14講以降は第13講のペイジ内やインデックス・ペイジ内のリンクよりご訪問ください。






  このペイジの一番上へ










  このペイジの一番上へ


参考文献
『ギリシア哲学者列伝下』
ディオゲネス・ラエルティオス著
加来彰俊訳 岩波文庫
青663-3 ¥903(税込み)
404p 1994/07
 思想ではなくその人物の「ひととなり」を中心に描いた本。
 エンペドクレスはじめ、ピュタゴラス・ヘラクレイトス・パルメニデス・(エレア派の)ゼノン・レウキッポス・デモクリトス・プロタゴラスは、この下巻。
この本をアマゾンで見る
楽天ブックスで見てみる
調べたときは在庫切れだった。



  このペイジの一番上へ






  このペイジの一番上へ





参考文献
『ソクラテス以前哲学者断片集第2分冊』  ¥4,830
内山勝利編 岩波書店
4講でもこの本を紹介したが、この講義のエンペドクレスも第2分冊に収録
この本をアマゾンで見る
楽天ブックスで見てみる

  このペイジの一番上へ


第4講に戻る
第6講に進む
© 2005 Tetsuhito Aichi
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送