ギリシア哲学への招待状 愛知哲仁 An Invitation to Greek Philosophy

第19講義 アリストテレスの著作と論理学

万学の祖

「分かる」は「分ける」

「理解する」ことを「分かる」と言いますね。これは、「重要な事とそうでない事がきっちり区別できる」という内容なのかも知れません。でも、およそ学問において、分類したり整理したりすることは大切です。学問は、まず、そこから始まると言っても良いでしょう。

それまでの学問を分類整理

アリストテレスは、それまでの学問を整理し、分類しました。そして、先人の業績にコメントを加えました。もちろん、自身でも研究をして、観察結果に合理的と思われる理論を当てはめていきます。大変地道な事業です。その面だけ見ても、特別な尊敬に値することでしょう。

天動説

うん、そう。確かに、天動説を唱えたりして、現在では正しくないとされることも言っています。天動説と結びついたキリスト教の教義のおかげで、天文学は2000年近くも遅れたと批判する人もいます。でもそれは、アリストテレスだけの責任でもないし、ここでは、これ以上話す知識がないので、次いくよ。

アリストテレスの著作

アリストテレスには、対話篇もあった

アリストテレスは、アカデメイアで学びました。何年くらい学んだんだっけ? よしっ、約20年。その間に、プラトンのたくさんの対話篇を読んでるはずだ。青・壮年期のアリストテレス。刺激されないわけがない。アリストテレスも対話篇を書いていたんだ。

アレクサンドロスのために『君主政治について』という対話篇も書いたそうだ。紀元前200年くらいの記録によると、19編の名前が挙がっている。でも、今ではほとんど残っていないんだ。うん、1編丸々ってのはなくて、断片だけ。だから、この話はこれ以上できないんだ。

研究資料

アリストテレスの学園リュケイオンは、立派な図書館を備え、各地から研究資料を集めていたはずです。ちょうど、アレクサンドロス大王の支配圏が拡大中だったことから、より広い範囲の文献・標本・地図などが優先的に手に入ったはず。

でも、残念ながら残っていません。1880年に、エジプトの砂漠から『アテナイ人の国制』というパピルスが見つかったのが、唯一です。ですから、こちらも、ここまで。

講義草稿

私もノートを見ながら講義をしています。何も見ずに講義をできる分野もわずかながらありますが、固有名詞や年号なんかは、結構間違っていたりします。この講義は、皆さんには悪いのですが、半分は私の勉強のためにやっています。まあ、そのためか、例年よりも分かりやすいという話もありますが……。

─────荻野弘之著『哲学の饗宴』p188-P189より引用──────
アリストテレス自身は舌がもつれて、あまり話がうまくなかった。そのためもあってか、彼は綿密な講義草稿を準備し、これが今日アリストテレスの「著作」として伝えられる内容の相当部分を占めることになる。
──────引用終わり────Amazon.co.jp楽天ブックス ────

岩波のアリストテレス全集は、17巻にもなってしまいますが、そのほとんどが、この講義ノートを基にしているのです。俊英が集うリュケイオンでの講義用です。難しいのは当たり前なのです。残っていない対話篇(岩波の全集第17巻に断片あり)は、読みやすかったかもしれません。

一般人には価値がないこのノートですが、講義を行うリュケイオンの先生には貴重なものです。代々の学頭に受け継がれるべきものです。アリストテレス死後は、このノート類もリュケイオンにありました。どういうわけか、トロイの近くにスケプシスという所があるそうなんですが、そこの穴倉の中に150年間も隠されます。燃やされてしまう危険でもあったのでしょうか。

紀元前100年ごろに、ある人物がこれを買い取ってアテネに持ち帰ります。その後すぐに、将軍スラに率いられたローマ軍がアテネを占領してしまいます。アリストテレス草稿は、戦利品としてローマに運ばれます。ローマでは、ある文法家がこれを出版しようとします。結局、ロードス島のアンドロニコス。この人はリュケイオンの最後の学頭です。この人が、草稿を整理して出版します。『アリストテレス全集』は、これを基にしています。

著作の構成

講義草稿からできた著書群は、だいたい、次のように分類されました。

  1. 論理学
  2. 自然学(物理学・心理学・生物学)
  3. 形而上学
  4. 実践学(倫理学・政治学)
  5. 制作術

論理学

論理学は考える道筋の研究

1番最初に【論理学】という分野がありますね。論理学とは何でしょう。ええ、パルメニデスとゼノン、エレア派のときに出てきましたね。

人間は、何かを決めるときに考えますね。そして結論に至ります。〔論理学〕とは、正しい結論に至る道筋についての学問です。正しい考え方を研究する学問と言ってもいいでしょう。この論理学という用語も西周(にしあまね)の使った言葉です。英語は logic です。

この分野のアリストテレスの著作には、『分析論』『トピカ』などがあります。それらの中で、アリストテレスは論理を進める方法を、【三段論法(さんだんろんぽう)】と【帰納法(きのうほう)】に分類しています。『分析論』は、主に〔三段論法〕について研究が記されています。

三段論法

〔三段論法〕は、【大前提】と【小前提】から【結論】を導き出す方法です。「人はみんないつかは死にます」、これが〔大前提〕。「ソクラテスは人間です」、これが〔小前提〕。「だったら、ソクラテスはいつか死にます」、これが〔結論〕となります。

  1. (すべての)人間は、いつか死ぬ。〔大前提〕
  2. ソクラテスは、人間だ。〔小前提〕
  3. よって、ソクラテスはいつか死ぬ。〔結論〕

これは、三段論法の中でも〔定言的三段論法〕と呼ばれています。ここでは、詳しくはやらないけれど、参考のため名前だけ紹介しておきます。あと、〔仮言的三段論法〕と〔選言的三段論法〕があります。

間違えてもらうと困るのですが、現在では、〔帰納法〕に対立する概念は【演繹法(えんえきほう)】です。〔演繹法〕の中のひとつの方法が〔三段論法〕なのです。

演繹法と帰納法

〔帰納法〕とは、個々の現象を観察し、それを集めて、その種や仲間について言える一般法則を求める方法です。たとえば、ソロンは死にました。ペイシストラトスも死にました。クレイステネスも死にました。ペリクレスだって死にました。こういう事例を積み重ねていきます。彼らはみんな人間です。人間は必ず死にます。こういう流れで結論に持ってくるのが〔帰納法〕です。

〔演繹法〕は、逆です。〔帰納法〕または〔演繹法〕によって分かっている一般法則や前提から個々の現象を求めていく方法です。三段論法の説明とかぶりますが、人間はみんないつか死にます。これが一般法則。アリストテレスも人間だからいつか死にます。これがアリストテレス個人について言える結論です。

〔演繹法〕と〔帰納法〕は、ちょうど逆の流れになります。それぞれ独立で証明を完結することができて、証明方法も反対です。でも、現実の世界では、この2つの論理法が、お互いに協力し合い、世の中のあらゆる場面で役に立っています。

プラトンは数学が得意でした。数学にも帰納的定義とか、私が苦手だった証明方法もありますが、演繹法中心です。それに対し、アリストテレスは、自然学が得意でした。自然学は〔観察〕〔実験〕を中心に進め、それによるデーターを集めます。そして、そのデーターから一般的な法則を探ります。〔帰納法〕ですね。アリストテレスは、この〔帰納法〕も重視し、積極的に研究を行った人物なのです。

アリストテレスは、「それ自体においてより先なるもの」と「我々にとってより先なるもの」という表現を使って、演繹法、帰納法について述べていますが、今日は珍しく難しい話をしたので、これ以上は、話を聞いてくれなくなりそうだから、やめておきます。

論理学はあらゆる学問の道具

アリストテレスは、〔論理学〕をあらゆる学問成果を手に入れる道具と考えました。正しい考え方を経て得られた知識しか認めない。まさに、アリストテレスらしい考えです。いや、この姿勢は、この後ずっと、およそ学問と名のつくものならば、絶対に従うべきものとなりました。まあ、言う必要もありませんね。

オルガノン

この論理学関係のアリストテレス著作群は、オルガノン(organon)と呼ばれています。英和辞典で organ を調べてみてください。おー、君は電子辞書持ってるね。どう? ああ、ジーニアスが入ってるね。〔「器具、道具」が原義〕って書いてあるね。楽器のオルガンの元の意味は、「道具」なんだ。あっ、それは言っちゃだめだ。いや、なんでもない。家で英和辞典を調べたらわかるよ。家でやってくれ。

すべての英和辞典に、語源が載ってるかどうかはわかりません。少なくともジーニアス英和辞典第3版には、1322ページに出てた。organ の1行目。ちょっと古いけど研究社の英和中辞典第5版の1168ページには、〔ギリシャ語「道具、楽器」の意から〕と書いてあった。ちゃんと「ギリシャ語」と書いてあるところがうれしい。あと、三省堂のクラウンは、語源はよく載せているね。ちょっと手元にないからだめだけど。

さあ、アリストテレスは、このオルガノンを使って、何を考え出したのでしょう。それは、来週です。


インデックス・ペイジ

初期ギリシア哲学
 第1講 ミレトス派
 第2講 ピュタゴラス派
 第3講 ヘラクレイトス
 第4講 エレア派
 第5講 エンペドクレス
 第6講 アナクサゴラス
 第7講 原子論

ソクラテス
 第8講 ソフィスト
 第9講 ソクラテスの生涯
 第10講 ソクラテスの弁明
 第11講 クリトン
 第12講 ソクラテスとは

プラトン
  第13講 プラトンの生涯
  第14講 プラトンの著作
  第15講 想起説
  第16講 イデア論
  第17講 哲人政治論

アリストテレス

  第18講 アリストテレスの生涯

  第19講 著作と論理学

  第20講 形而上学

  第21講 ニコマコス倫理学・前

  第22講 ニコマコス倫理学・中




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参考文献
『現代物理の世界がわかる』 「アリストテレスの自然哲学から超弦理論まで」
和田純夫著 ベレ出版
\1,680(税込み) 2002/06
Amazon.co.jp  楽天ブックス


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参考文献
『図説宇宙科学発展史』 「アリストテレスからホーキングまで」
本田成親著 工学図書
¥1,680(税込み) 2003/12
この本をアマゾンで見る
楽天ブックスで見てみる
在庫なしやリンク切れの場合はご容赦を。




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参考文献
『アテナイ人の国家OD版』
アリストテレス著
原随園訳
一穂社/紀伊国屋書店
\4,095 2004/12
Amazon.co.jp
楽天ブックス




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参考文献
『動物部分論』
アリストテレス著
坂下浩司訳
京都大学学術出版会
\4,725 2005/02
 最新作。絶版となる可能性も。
Amazon.co.jp
楽天ブックス





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参考文献
『動物誌(上)』
アリストテレス著
島崎三郎訳 岩波文庫
\903 1998/12
 下巻は\798。
Amazon.co.jp  楽天ブックス





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参考文献
『弁論術』
アリストテレス著
戸塚七郎訳 \903
岩波文庫 1992/03
 実践の学問の制作術の範疇。
Amazon.co.jp  楽天ブックス





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参考文献
『アリストテレス』
今道友信著 2004/05
講談社学術文庫 \1,470
Amazon.co.jp  楽天ブックス





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参考文献
『アリストテレス』
日本倫理学会
慶應義塾大学出版会
\3,150 1986/10
Amazon.co.jp  楽天ブックス
参考文献
CASIO音声付電子辞書

ジーニアス英和辞典第3版
Amazon.co.jp  楽天ブックス

研究社英和中辞典
Amazon.co.jp  楽天ブックス


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